原料の違いから見えてくる世界各地のウイスキー
ウイスキーとはどんなお酒か?
最初にウイスキーの定義を説明します。大きく分けると、ウイスキーの条件は次の3つです。
穀物が原料
ウイスキーの原料は穀物です。おもなものは大麦、トウモロコシ、ライ麦、小麦など。単独で使用される場合もありますが、ほとんどの場合はいくつかの穀物をブレンドして使用します。蒸留させて製造
ウイスキーはモルトを糖化した液体を発酵させ、蒸留することで製造されるお酒です。蒸留のやり方、回数などはウイスキーの種類によって異なります。木樽で熟成
蒸留した原酒は樽によって熟成されます。樽の種類、大きさ、熟成される期間などはウイスキーの種類によってさまざまです。関連記事
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ウイスキーを原料別に分類
ウイスキーは一般的には国別に分類することが多いのですが、ここでは原料別に分類してみましょう。
大麦がおもな原料のウイスキー
ウイスキーの多くは大麦がおもな原料となっています。該当するのはスコッチ、アイリッシュウイスキー、ジャパニーズウイスキーなどで、国の定義によって例外はありますが、一般的に大麦のみを原料としているものがモルトウイスキーと呼ばれるのです。トウモロコシがおもな原料のウイスキー
トウモロコシのお酒として有名なのはバーボンです。アメリカの法律によって、原料の51パーセント以上、80パーセント未満がトウモロコシであるものがバーボンと定義づけられています。なおトウモロコシを80パーセント以上使用したものはコーンウイスキーと呼ばれるのです。トウモロコシ、ライ麦、小麦などの穀物がおもな原料となっているのがグレーンウイスキーと呼ばれるウイスキーです。グレーンは英語では「grain」と表記され、穀物全般のことを指します。原材料にグレーンと表示されている場合には、どんな穀物がどれくらいの割合で配合されているのかはわかりません。
ライ麦がおもな原料のウイスキー
ライ麦をおもな原料として造られているのがライウイスキーです。ライウイスキーには厳密な定義があります。51パーセント以上のライ麦を原料として使ったものがストレートライウイスキーと呼ばれているのです。ライ麦をおもな原料としているウイスキーの代表的な存在がカナディアンウイスキーといっていいでしょう。ライ麦が主原料の原酒にトウモロコシが主原料の原酒をブレンドして製造。ライ麦中心の原酒の比率が高くなるとスパイシーになり、トウモロコシ中心の原酒の比率が高くなると、まろやかになる傾向があります。
カナダでライ麦を使ったウイスキーが多く造られているのは、ライ麦が小麦や大麦と比べると、寒さに強いという特長があり、カナダのような寒冷地に適した穀物だからです。
モルトとシングルモルト
モルトウイスキーはそのまま「モルトウイスキー」と呼ばれるもの、「シングルモルトウイスキー」と呼ばれるものなど、いくつかに分かれます。呼び名とその定義について、整理しておきましょう。
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国によって定義が変わるモルトとシングルモルト
モルトとは発芽した大麦麦芽のことです。発芽することによって糖化して発酵が可能になります。大麦のみを使ってモルトで発酵させたウイスキーがモルトウイスキーです。モルトウイスキー、シングルモルトウイスキーなどの呼び方があり、国によって定義が変わる場合もあります。特にスコットランドとアメリカでは大きな違いがあるので注意が必要です。スコッチウイスキーのモルトウイスキーの定義は大麦麦芽のみを原料とし、単式蒸留釜によって2回から3回蒸留させたものとなっています。
一方、アメリカンウイスキーのモルトウイスキーの定義は大麦が原料の51パーセント以上のものとなっているのです。スコットランドが大麦のみと定義されているのと大きな違いがあります。アメリカにおけるシングルモルトウイスキーは大麦のみで造られたウイスキーと定義されているため、ややこしいところがあるのです。つまりスコットランドのモルトウイスキーがアメリカにおけるシングルモルトウイスキーと対応しているといっていいでしょう。
モルトとシングルモルトの違い
モルトウイスキーとシングルモルトウイスキーの定義は国によって違う部分がありますが、ここではスコットランドのスコッチのモルトとシングルモルトの違いを解説します。スコットランドのモルトウイスキーは大麦だけを原料として単式蒸留によって蒸留したものです。異なる蒸留所のモルト原酒をブレンドしたものをブレンデッドモルトウイスキーといいます。
シングルモルトウイスキーは同じ蒸留所で熟成された複数の樽の原酒をブレンドしたもののことです。なおシングルカスクは蒸留所のひとつの樽だけの原酒を詰めたもののこととなります。カスクには樽という意味があるのです。
モルト、シングルモルトの他に、ブレンデッドウイスキーとして分類されるウイスキーがあります。ブレンデッドウイスキーは前述のブレンデッドモルトウイスキーとは異なるものです。モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたものがブレンデッドウイスキーと名付けられています。
単独と混合、味や製造方法の違いは?
シングルカスク、シングルモルト、モルト、ブレンデッドは大麦を材料としたウイスキーという点では共通していますが、ブレンドの仕方によって、名称が異なっています。なぜこのようにさまざまな製法が生まれたのでしょうか?その答えはいくつか考えられます。ひとつはお酒の好みが人それぞれ違うあること、もうひとつはウイスキー供給量の変化への対応です。シングルカスク、つまり蒸留所のひとつの樽だけで造ったウイスキーはとても個性の強い味になります。たったひとつの樽だけの味なので、ピュアであり、希少価値もありますが、量もひと樽分のみとなり、きわめて少量になるのです。
シングルモルトも同じ蒸留所で製造されているため、個性的な味になります。ただしシングルカスクと違って、複数の樽をブレンドするので、ひと樽ひと樽の個性を活かしながらもバランスの取れた味となるのです。蒸留所の規模にもよりますが、こちらも大量生産というわけにはいきません。
モルトウイスキーは異なる蒸留所のウイスキーを混ぜあわせるので、蒸留所の個性を残しながらも、異なる個性のブレンドの妙を楽しむことができます。いろいろな組み合わせが考えられ、製造量の調節も可能。
もっとも大量生産に向いているのがブレンデッドウイスキーです。モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドすることによって、飲みやすいウイスキーが完成します。樽や蒸留所の個性は薄れますが、安定した均一の味での大量生産が可能になるのです。現在、世界で流通しているウイスキーの9割以上がブレンデッドウイスキーとなっています。
ウイスキー好きならば、モルト、シングルモルト、シングルカスクと、遡って飲んでいくのもいいでしょう。ウイスキー初心者には飲みやすくてリーズナブルなブレンデッドウイスキーがおすすめです。
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定義の異なる5大ウイスキーを配合別に整理
ここまで原料を中心としてウイスキーについて解説してきました。整理する意味も兼ねて、5大ウイスキー別に原料を確認しておきましょう。
スコッチウイスキー
スコッチウイスキーの原料はモルトウイスキーでは大麦のみ、グレーンウイスキーではトウモロコシ、小麦などの穀物、ブレンデッドウイスキーでは大麦、トウモロコシ、小麦などの穀物となります。アイリッシュウイスキー
アイリッシュウイスキーは大麦を中心的な原料として、ライ麦、小麦などの補助原料を使用。さらにモルトを加えて製造します。ジャパニーズウイスキー
ジャパニーズウイスキーもスコッチと同じようにモルトウイスキー、グレーンウイスキー、ブレンデッドウイスキーに分類されます。モルトは大麦のみ、グレーンウイスキーはトウモロコシ、小麦などの穀物、ブレンデッドウイスキーはモルトとグレーンをミックスしたものなので、大麦、トウモロコシ、小麦などの穀物が材料となっているのです。アメリカンウイスキー
アメリカンウイスキーの原料はバーボンやコーンウイスキーの主原料となるトウモロコシの他に、ライ麦、小麦、大麦などの穀物です。なお、トウモロコシをおもな原料としたものがバーボン、テネシーウイスキー、コーンウイスキーなど。ライ麦をおもな原料としたものがライウイスキー、小麦をおもな原料としたものがホイートウイスキーとなります。カナディアンウイスキー
カナディアンウイスキーの多くはライ麦をおもな原料としたライウイスキーに、トウモロコシをおもな原料としたマイルドなウイスキーをブレンドしたものです。大麦、小麦なども使用されています。珍しい原料を使ったウイスキー
ここまで大麦、トウモロコシ、ライ麦、小麦が原料となるウイスキーを紹介してきました。しかし穀物はこの4種類だけではありません。世界各地ではさまざまな穀物を原料とするウイスキーが作られてきました。いくつか、紹介しましょう。
米で作るウイスキー
麦がウイスキーの原料になるならば、米だってウイスキーの原料になるのではないかと考える人もいるでしょう。実際にかつて日本でキリン・シーグラム社(現在のキリンディスティラリー)から「ライスウイスキー」が静岡県限定で発売されていたことがあるのです。一般的に米のお酒というと、まず日本酒と米焼酎が思い浮かびます。ウイスキーが蒸留酒であることから考えると、ライスウイスキーは同じ蒸留酒である米焼酎と近いお酒だと推測されるでしょう。ライスウイスキーは原料となる米を糖化して発酵させ、蒸留することによって造られます。発酵する段階でモルトを混ぜることが大きなポイントです。比率は米7割に対してモルト3割。雑味のないすっきりとした味と米の風味、透明の液体が特徴となっています。富士御殿場蒸溜所で製造されて、1994年から販売を開始しました。しかし1997年に生産が終了しているため、現在、流通していたとしても、きわめて少ない数で入手は困難な状況です。
しかしライスウイスキーは他にもあります。2020年4月には「エッセンス・オブ・サントリーウイスキー ライスウイスキー」が販売開始となりました。メーカーはサントリースピリッツ株式会社で、芋焼酎で有名な鹿児島県の大隅酒造で製造されています。米にモルトを混ぜて発酵させ、ホワイトオーク樽で3年以上熟成したウイスキーです。白桃のようなフルーティーな香りとふっくらとしたまろやかな味わいが特徴。ラベルには大きく「新」の文字があります。新たなる挑戦の意気込みがラベルからも伝わってくるのです。
蕎麦で作るウイスキー
蕎麦が原料となっているウイスキーもあります。エデューシルバーという名前のウイスキーで、製造しているのはフランス、ブルターニュ地方のメニール蒸溜所です。蕎麦の実を原料として、2度蒸留して、コニャックの樽で5年間熟成させて製造。ハチミツ、バニラ、さらにはオレンジピールなどの柑橘系の香りとやわらかな口当たりが特徴的です。このエデューシルバーの他に、10年以上熟成させたエデューゴールド、15年以上熟成されたエデューディアマンなども製造されています。キヌアで作るウイスキー
キヌアはNASAが21世紀の宇宙食として高評価しているスーパーフードです。南米のボリビアでとれる雑穀で、タンパク質、食物繊維の他に、カルシウム、マグネシウムなどの鉄分を大量に含む健康食品として注目されています。このキヌアを原料としてウイスキーを造っているのがアメリカ、テネシー州ナッシュビルにあるクラフトディスティラリー(手作業によってウイスキーを製造する小規模の蒸留所)として有名なコルセア蒸留所です。この蒸留所は「オルト・ウイスキー」、つまり既存のウイスキーとは異なる新たなウイスキーを開発することを目標として掲げて、さまざまなウイスキーを製造してきました。その代表的なもののひとつがキヌアを原料としたコルセアキヌアです。
キヌア2、モルト8の割合で混ぜた原料を使い、単式蒸留器で蒸留。バニラ、ヘーゼルナッツのような香りとほのかな甘みが特徴的で、飲みやすいウイスキーとなっています。
ウイスキーの原料としての仕込み水
ウイスキーの原料として忘れてならないのは水でしょう。水はウイスキーのおいしさを大きく左右する重要な要素なのです。どんな水がいいのか、解説していきましょう。
ウイスキー造りに欠かせない水
ウイスキーの製造に使われる水は仕込み水と呼ばれています。ウイスキー造りにおいては、この仕込み水が大量に使用されるため、ほとんどの場合、ウイスキーの醸造所の近くには良い水源があるのです。良い仕込み水の条件は飲んだときにおいしいということだけではありません。モルトを発酵させる際に酵母の活動が活発になるように、ミネラルがバランスよく含まれている必要があるのです。
日本のウイスキー造りの歴史をみると、良い水源がある場所を探して、その近くに醸造所を建てるところからスタートしていることがわかります。日本初の蒸溜所、山崎蒸溜所のある大阪府三島郡は千利休が茶室を開いたほど水質の良い地域として有名です。山梨県の白州蒸溜所の近くには日本の名水100選に選ばれた尾白川が流れています。おいしいウイスキーのあるところに名水あり。水の質によって、香りや口当たりの良さも変わってくるので、いかに良い水源を見つけるかが重要なポイントになるのです。
硬水と軟水の違い
水は硬水と軟水に分類されます。一般的にジャパニーズウイスキーやスコッチはミネラル分が少ない軟水が多く使われ、アメリカンウイスキーやカナディアンウイスキーは硬水が多く使われる傾向があるのです。ミネラルが多く含まれているほうがいいという説もありますが、マグネシウムは酵母の働きを抑制する作用があるので、一概にはいえません。硬水か軟水かよりも、いかにミネラル成分がバランス良く混ざっているかが重要ということでしょう。ジャパニーズウイスキーが世界的に評価されるようになった背景には日本の名水があるのです。まとめ
ウイスキーを原料という視点から見ることによって、ウイスキーが風土と密接な関わりのあるお酒であることがわかります。そしてまたウイスキーがおいしいお酒を造ろうとする人々の情熱の成果であることも実感できるでしょう。グラスの中で光り輝く琥珀色の液体は多くの人々のたゆまぬ努力の結晶でもあるのです。